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《Made in》
石鹸 3Dプリンター
2025
「Made in」という表記は、一般的に「~製」あるいは「~で作られた」という意味を持つ。消費の場面において、日本人はこの表記に強く注意を払う傾向がある。しかし、そこに記されるのは多くの場合「国名」に限られ、州や街といった細部に及ぶことは稀である。
「Made in」をめぐる問題は国内にも存在する。たとえば広島の牡蠣は東京産の牡蠣よりも美味であると広く信じられており、その価値観を利用して東京で採れた牡蠣を一度広島に持ち込み、「広島産」として販売するという産地偽装が起こっている。この出来事は「Made in」の信憑性そのものを揺るがすものであり、我々が「どこで作られたのか」と考える際の認識の脆弱さを露呈させる。
本作品は、そうした「Made in」の曖昧さをめぐる思考を基盤としている。私は使用された石鹸を3Dスキャンし、3Dプリンターで出力することによって、物質を量産する行為を試みた。量産は一方で個々の存在を独立したものとして強化しながらも、同時に「それが本当にどこで作られたのか」という問いをかえって曖昧化する。この二重性は、美術がしばしば内包する逆説的な構造そのものである。
「Made in」とは単なる出自の表記ではなく、場所・信頼・意味といった概念を織り込んだ思想的な装置である。本作品は、その装置を可視化し、我々が無意識に信じ込む「産地」の権威を批評的に問い直す試みである。
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